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執筆者の写真地引 由美 Yumi JIBIKI

シモーヌ フランスに最も愛された政治家

映画『シモーヌ フランスに最も愛された政治家』を観てきました。原題は " Simone, le voyage du siècle(シモーヌ、世紀の旅)" です。有楽町ヒューマントラストシネマの初回上映の客席は9割以上の入りで、60代以上の女性の姿が多く、幅広い年代の男性も。



映画の始まりはテーブルの上に置かれたレモンとブーゲンビリアの花と南仏の青い空。自叙伝を綴るシモーヌが、一家が住んでいたニースからバカンスに出かけたマルセイユ近くの ラ シオタ の海辺での回想から始まります。16歳の時に母と姉の三人でアウシュビッツ=ビルケナウ収容所に送られ、母をそこで亡くし、父と兄も別の強制収容所に送られ行方知れずに。生還後にフランスの最高学府 グラン ゼコールで出会ったアントワーヌ・ヴェイユと1946年、19歳の時に結婚します。卒業後は政府高官、大臣、そして欧州議会議長としてより良いローロッパの実現に貢献します。弱い立場の人々、虐げられている人々を救うために力強く進みます。

16歳で収容所に移送された時、その場に漂うにおいは遺体を焼くにおいだと教えられます。尋問では16歳でなく18歳と年齢を変え、所持品はすべて没収され、名前までも奪われ、代わりに『78651』という番号が。髪を刈られ裸にされる前、彼女の友人の一人がバッグの中に持っていたランバンの香水『アルページュ』をナチスに渡したくないという衝動から、皆で香りを吹きかけます。文字では何度も読んだこのシーンが映像化される、それを観たいと思っていました。映画では回想シーンが繋がっていくので、場面もどんどん切り替わるのですが、それでも見続けるのが辛い時も。 死の匂いの中で、漂うほのかな女性らしさ。それは誰にも奪えないアイデンティティであり、これからの苛烈な状況を生き抜くための決意表明。シモーヌ・ヴェイユはこの香りを決して忘れることはなく、生涯持ち纏い続けることになります。偶然にも彼女の生まれ年は、アルページュが発売された年です。香水をテーマにした凡百のどの映画よりも、このシーンには香水を纏うことの意味が描き出されています。 泣くかな、と思って上映前に膝の上にハンカチを用意していたのですが、涙を超える感動の事実にうちのめされました。外に出たら苦しいほどの暑さ。



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