ミヤビブランドコミュニケーションズの代表取締役 田中雅之さまからご紹介して頂き、京都御所の近くの山田松香木店 のオンライン聞香実践体験 に参加させて頂きました。この聞香実践体験、香水が好きな方にぜひ、参加して欲しいと思います。 聞香体験では、沈香=沈水香木、つまり香り物質である樹脂が付着して出来る香木を使用します。
香水の世界でも『沈香』は『ウード』として、近年人気の香りのグループとなっています。でも、このウード香は中東の方々の好みの香り。香木を粉状にして、香油を混ぜ、蜂蜜や糖蜜で練って団子状にして焚くスタイルの香りです。
以前、大使公邸でレバノン大使夫人にこのお香、バフール(Bukhoor)を焚いて頂いた時の様子です。たくさんの香煙を発生させ、お客様にお出しするお水にも香煙で香りをつけて提供することが贅沢なおもてなしとなります。文化、気候、風土が異なりますから、沈香=ウードの香りの好みも異なります。こちらでは、ねっとりとした、力強い重い香りが好まれます。
日本の香道では、温めた灰の上に雲母の薄い板を乗せ、その上に香木を細かく割って乗せます。直火ではなく、間接的な熱で温めて香りを発生させる、混ざりもののない、香木だけの香りの世界。 中東好みのウードの香水は知っていても、日本の文化、香道の手法で立ち登る沈香の香りを知る人は少ないのがとても残念でした。そこで、私が主催する香りの会 ラ コゼット パフュメでは、2019年2月2日に、香道及び茶道志野流の第21世家元継承者であり志野流香道の若宗匠、蜂谷 一枝軒 宗苾(はちや いっしけん そうひつ )様にお越し頂いて、お話をお伺いさせて頂きました。その時の様子がこちら。 『La causette parfumée ラ コゼット パフュメ – 香りのおしゃべり会 』第21回 http://lacausetteparfumee.com/kaori/la-causette-parfumee-vol-21.html 冒頭のお言葉が忘れられません。 「伝統芸能という言われ方をすることがありますが、香道は芸能ではありません。香を焚いたからといって拍手をもらうこともありません。ただひたすらに祈るお坊さんに近いのかもしれません。私の父はもうすぐ81歳(当時)ですが、その父がいまだに書斎を覗くと、朝から晩までずっとお香を聞いているのですね。多分そういうことなんだろうと。」 と、550年以上途切れることなく続く志野流の歴史や数々のエピソードをお聞かせ頂き、ゲランのパフューマー、ティエリー・ワッサー氏が志野流香道を体験したときのお話なども出ました。会の終わりには全員に香炉を回して貴重な伽羅の香りを聞かせてくださいました。今回の聞香体験も良いですが、あの時に聞かせて頂いた香りは、丁寧に準備されていて、香りの繊細さが素晴らしく別次元のものでした。 でも、このような特別な機会がなければ香道における沈香の香りに触れる機会はないでしょう。また、自分でお道具を揃えたとしても、やり方が合っているのかは不安なもの。
山田松香木店のオンライン聞香実践体験に申し込むと、まずこのようなお道具のセットを送ってきてくださいます。
香道のことを全く知らない方でも、実践体験ができるお道具が揃えられています。用意するのは、ライター(向かって左端の赤いライターは私物です)。そしてzoomのアプリをインストールしておくことだけ。
最初にまず、炭団への火の付け方を教えて頂き、香木についての解説をお聞きしてから、灰の整え方を学びます。山田松香木店の三浦範子様の解説と動画で、とてもわかりやすいですし、zoomの画面で「これでいいですか?」とお見せして、確認してもらえます。少し灰をこぼしたりしても自宅で一人であれば誰にも迷惑をかけません。
灰を整え、線を引き、熱の抜ける穴を開けてからそっと銀葉を乗せます。
最初は伽羅(きゃら)から。沈香の中でも最上級の香りです。包みを開く拍子に、香木が飛び出てしまい焦りましたが、先生には見えていなかったようでほっ(笑)。何食わぬ顔で火箸で挟み、銀葉に乗せました。
すぐに立ち上る、甘やかな香り。身を委ねたくなるような鷹揚でうっとりするような香り。香水のトップ、ミドル、ラストの香りの移り変わりではないですが、香木も熱に触れてからは時間と共に刻々とその香りの表情を変えます。この聞香実践体験では、自分の手の中にずっと香炉がありますから、その香りの移り変わりを最初から最後まで体感することが出来るのです。一つの香炉を幾人かで回すのとは違う、贅沢な経験です。
続いて、真南蛮(まなばん)です。古木をイメージさせる渋い匂いの中に、一瞬、青葉の香りがしました。まるで、この木の若い時の姿を見せてくれたようです。これが香木と対話するということなのかと、この日一番感動した瞬間でした。
三つ目の香木は寸聞多羅(すもんだら)。よく香りを聞いているうちに、香りを味に置き換えて表現する五味(甘・酸・辛・鹹・苦)のうちの鹹=しおからいの香りを感知することが出来ました。これも初めての新鮮な感動です。
香木は漢方薬、薬種として使われるものもある様に、人の体や精神に良い作用がたくさんあることが知られていて、一休宗純が紹介したとされる『香の十徳』として、以下のように挙げられています。
・感格鬼神(かんかくきじん)… 感覚が鬼神のように研ぎ澄まされ集中できます。
・清浄心身(しょうじょうしんじん) … 心身を清浄にします。
・能除汚穢(のうじょおえ)… けがれやよごれを除きます。
・能覚睡眠(のうかくすいみん) … 眠気を覚ましてくれます。
・静中成友(せいちゅうじょうゆう)… 孤独な時に心を癒やしてくれます。
・塵裡偸閑(じんりゆかん) … 忙しい時にくつろぎを与えてくれます。
・多而不厭(たじふえん)… 多くあっても邪魔になりません。
・寡而為足(かにいそく)… 少なくても芳香を放ちます
・久蔵不朽(きゅうぞうふきゅう)… 長期保存してもいたみません。
・常用無障(じょうようむしょう) … 常用しても害がありません。
コロナ禍中に家で過ごす時にリラックスする為に、またリモートワーク時に集中する為に役立ちそうなことがたくさんありますね。
・能覚睡眠(のうかくすいみん)は、『覚』をおぼえるとして、眠りを誘うという意味にもなります。私はこのところの気候のせいか二、三日不眠症気味だったのですが、聞香体験のあと崩れ落ちるように睡魔に襲われて1時間ほどぐっすりと眠ってしまいました。起きたら頭がスッキリ。元気になって、視力まで良くなったような気がします。
片付けを終えてから、緑茶と和菓子で一息。
歌舞伎の助六にも「きゃら臭え(しゃらくせえに掛けています)」という台詞があるけれど、どれだけの人が伽羅の香りを知っているかしら?
そして、エキゾチックな中東のウードの香りも素敵だけれど、やはり、日本の香道における沈香の香りの良さを表現した香水が出来ると嬉しい。
香水Loverの皆さま、この聞香実践体験は本当にオススメです。現在受付中の日程は【3月19日10:30〜】のお席となるそうで、お道具のセットのお届けは3月11日~15日頃の予定だそうです。定員は4名なので、すぐに満席になりそうですね。
体験のお値段は、基本のお道具込みで11,000円(税込)。お道具をすでにお持ちの方は、香木・炭団・説明書・送料のみで3,000円(税込)です。
お申し込みはこちらから。
山田松香木店公式サイト
オンライン体験 聞香実践-もんこうじっせん-
https://yamadamatsu.shop-pro.jp/?pid=156947744
「あの香水が好き」と同じように「あの香木よかったね」なんていう会話がしてみたいなぁ。
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