気がつけば来年で20年。グラースの国際香水博物館(=ル ミュゼ アンテルナスィオナル ドゥ ラ パルフュムリ Le Musée International de la Parfumerie)に通い始めてからの年数です。 世界でもユニークなこの博物館の歴史を少し。マリー・フランソワ・サディ・カルノ第5代フランス共和国大統領の息子、フランソワ・カルノ(1872 - 1960)はエンジニアであり政治家、そして芸術を愛し優れた感覚を持つ人でした。1918年、彼はグラースに私設博物館を設立し、1921年にはすでに寛大な寄贈者達から得た、香水に関する様々な豊かなコレクションを用意していました。さらにピヴェールやピノーなどの香水ブランドで活躍していたグラース出身、そしてパリ出身のパフューマー達、そして当時のグラースの香料産業の大企業、シリス社もこの博物館の為に尽力しました。グラースに香水の博物館を設立するというアイデアの最も熱心な支持者の一人であったフランソワ・カルノは、香水産業の世界と装飾芸術の世界をグラースで集結させたのです。 1889年、エメ・ゲランによる香り『ジッキー』が発売されたフランス近代香水の黎明から100年後の1989年1月に国際香水博物館は開館し、 香水に関連する仕事の生き生きとした記憶や、グラース特有の非常に強いアイデンティティーである香水産業について、全世界に向けて紹介しています。リニューアル後の2008年からは、4,000平方メートルの床面積、87の展示室、50,000点以上に及ぶ収蔵品を保持し、五大陸に渡る古代から現代までの香水産業について特化した世界でも稀なコレクションを展示しています。
国際香水博物館は、フランス文化省が認定する、ミュゼ ドゥ フランス(Musée de France)として保証された1,218館の美術館・博物館のうちの一つです。そのミッションは「コレクションを保存、復元、研究、充実させ、それらを広く一般に公開する。教育および普及活動を実施し、研究の進展と普及に貢献する」です。 さらに、下記の条件を満たしていなければなりません。
・領土、または国の文化部門(学芸員または保護担当者)の科学スタッフが主導する。
・自ら、または他の博物館とのネットワークで、教育サービスを手配する。
・館のコレクションの収蔵品目録を最新の状態に保つ。
・主な方向性を設定する科学文化プロジェクトを作成する。
フランスの南部、コート=ダジュール(紺碧海岸)の空路の玄関口は、ニースのコートダジュール国際空港です。そこから車だと約1時間と少しで、世界で唯一『香水の街』と呼ばれるグラースに到着します。なぜグラースが『香水の街』と呼ばれるのでしょうか。それは中世からのヨーロッパの香水の歴史の中心地であっただけでなく、現代でもここでは香水に関わる全てのことが行われているからです。香料用植物の栽培、香料会社、香水ブランドの研究施設、香水店まで、グラースでは香水に関わる全てのことを知ることができるのです。 香水産業のシンボルとも言えるのがこの香水売りの像。首から下げた陳列棚には香水瓶が並べられ、手には香り付きの鞣し革、ポマンダー。背中には香り付きの扇子。匂い付き革手袋や、香り付きの塩、米粉の白粉、タバコなどの袋を下げています。
この香水売りの像に向かって右。リニューアル前までの博物館の入り口には、かつて隆盛を誇った香料会社、ユーグ エネ社の見事なファサードが現存しています。その当時の展示は、地方の伝統産業の展示館といった趣きで、工場から持ってきてそのまま置かれたような蒸留機や、あまり整頓されていない香水瓶の展示など、1時間あれば見終わってしまう規模だったように記憶しています。
現在はこちらは出口となっていて、中はミュージアムショップです。それでもグラースの街を散策しながらこちらが入り口だと思って入ってしまう観光客に「入り口はそこの階段を登って右手ですよ、マダム」と案内をするのが、ブティックの係員が日に何度も繰り返すなかなかにたいへんな仕事だったりします。
それでは現在の正面玄関にまわってみましょう。 ジュ ドゥ バロン通り(boulevard jeu de ballon)に面したこちらが正面入り口です。
チケットを購入して、階段を上がると展示室の入り口の天井に、香水に関する言葉が各国の言葉で書かれたムエットのオブジェが下がっています。この場所の左手には企画展示室、少し右にセミナールームがあります。
香料植物が展示された温室を出て進むと、小さなテラスになった休憩スペースがあります。弧を描くフラゴナール通り(boulevard Fragonard)と、オノレ クレスプ広場(Place du Cours Honoré Cresp)を臨むここからの眺めは、晴れた日には地中海も見えて気持ちの良いものです。
古代、中世とさらに展示を見ながら進んでいくと、中庭への出口があります。
庭には季節の花が咲き、果実をつけたオレンジの木があります。そして数々のアート作品が展示されています。
アリス・ドゥ・ロスチャイルドがロンドンの陰鬱な空気を嫌い、明るい陽光を求めてグラースに広大な屋敷を建てたという歴史を感じさせるような、エレガントなピンク色の棚が並ぶ展示室。
もちろん数多くの歴史的に貴重な香水瓶の展示もあります。通常展示では製品としての香水の試香ブースはありませんが、展示に関連した香料原料を試香できる機器があります。
ジャン・カールの香料オルガン。
バカンスシーズンには、博物館スタッフによるミュージアムツアーも行われます。
セミナールームでは、月に一度、香水に関する様々な分野のゲストを迎えてのセミナーが開催されます。
2008年まで10年間、ヴェルサイユにあるオスモテークの館長を務められたジャン・ケルレオ氏による、ポール・ポワレのセミナーの様子。
展示室でのセミナーが行われることもあります。こちらは南仏の庭園芸術に関するセミナーの様子。
国際香水博物館友の会の会員の皆さまを中心に、満員御礼。
ジャン・パトゥのセミナーの時には、グラース インスティテュート オブ パフューマリーで調香を学んでいる学生さん達も大勢いらしてました。この日も超満員で、後方の階段にも多くの方が座っていました。
セミナー後にホワイエで行われるカクテルパーティ。
そして、光に溢れ、オレンジの実る庭でも…
企画展を記念した盛大なレセプションが行われることがあります。
フラゴナール通りから見上げる、夜の国際香水博物館。ライトアップされていて素敵です。
さて、グラースの方々の10年間にわたる活動が実を結び、昨年の11月29日に『グラース地方の香水にかかるノウハウ』がユネスコ無形文化遺産に登録されました。それを祝して館内の展示も変化しています。
そして、もう一つ、今年はもうすぐ素晴らしい、誇らしいニュースをお伝えできます。
どうぞ楽しみにお待ちくださいね。
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